<流れとともに>

 以前、大和川の河川敷に散乱しているゴミを拾ったことがある。空き缶、ペットボトル、お菓子の包装紙など日常生活のあらゆるものがあり、ゴミ袋がすぐ一杯になった。しばらく続けたが、人が捨てたものを拾うのがなんとなくバカバカしくなってきた。その頃、焼却場から排出されるダイオキシンの問題も明らかになり、結局汚染の移転に過ぎないという思いに至ってやめた。

そのまま放って置かれたゴミは、増水し流されて木に引っかかればゴミの「クリスマスツリー」と化し、川辺を埋めて海へと流れていく。そして、海では漂流しているゴミを魚や鳥がエサと間違って飲み込み、死に至らしむ。流れ着いたゴミは海岸や砂浜を埋める。

何気なしに落としたゴミが水の流れととも世界的規模で流れていく。淀川や大和川から流れ出たゴミは対岸の淡路島の海岸へ流れ着くことが多いそうである。日本海の沿岸には韓国から流れてきたと思われるハングル文字のゴミが流れ着くことがたびたびある。「コイサンマン」という映画では、空から降ってきた空き瓶からドラマが始まった。世界のある海岸で、日本からの漂着物から何かドラマが始まれば面白いかもしれない。しかし、現実にはそのまま分解もされず、溜まりこんで環境汚染を引き起こしている。

海岸に漂着したゴミを調査したクリーンアップ事務局によれば、多いのがタバコのフィルターで全体の20%を占めた。毎日新聞の調査では、プラスチック類が多く、全国で年間1万から2万トンにのぼると推計している。

野積み     2002.11.27

目に見えるゴミだけでなく、海は「見えないもの」でも汚染されている。ダイオキシンや環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)は水に溶けず、水とともに流れて水底に堆積し、魚介類の体内に蓄積されて生態系を乱している。野積みされた産廃処理場などからの有害物質の流出、タンカー事故での油の流出、核実験や原潜から漏れる放射性物質でも汚染されている。

すべての生物は海から生まれたという。人間の体内から出る汗も塩っぱいのもそのためだ。海を汚染することは自らを汚染することにならないだろうか。

 

<「見えない水」の輸入>

 人間は1日におよそ2.5リットルの水を飲料水と食べ物から摂取しているが、その食べ物にはどれほどの水分が含まれているのだろうか。100g当たり肉類は平均すると60〜70g、水産食品では魚類で60〜80g、貝類で80〜90g、農産物ではイモ類が70〜80g、キュウリやナス、トマトなどが90〜95g、果実類が85〜95gである。(参考文献『水のふしぎ発見』平澤猛男著 山海堂)これを調理し、残った水分を摂取している。

 2003年3月に琵琶湖流域で開催される世界水フォーラムで重要なテーマとなっているのが「見えない水」の輸入の問題である。2000年には食糧自給率が40%を切り、日本は世界最大の食糧の輸入大国となっている。言い換えれば、その食糧に含まれる水の輸入大国でもある。さらにその食糧を生産するために消費される水も膨大である。

 1トンの米を生産するのに5500トン、1トンの穀物には1000トンの水が必要と言われている。輸入量から見れば、大豆(4751千トン)に20.4億㎥、小麦(5758千トン)に11億㎥、大麦(1470千トン)に2.6億㎥、トウモロコシ(16049千トン)に15.1億㎥の水が必要ということだ。(数値は1998年、参考文献世界水フォーラム発行パンフレット)

 この「見えない水」が大量に海外から輸入されている。21世紀は世界的に水不足になるといわれている。日本経済新聞(2002.6.10付け)によれば、国立環境研究所と京都大学の研究では「50年後、温暖化による降雨の増加で世界的には水需給の逼迫した状況にはならないものの、中国では人口増加による水需要の増加、内陸部の経済成長などで深刻な水不足となり、一時的に長江で渇水になる可能性が高まる」と予測されている。

   

千早赤阪村の棚田   2001.10.3   飛鳥の棚田 2001.9.24

90年代にはいると、北米に対してアジアからの食糧の輸入が急増した。特に中国からの比率が高まっている。それは日本の農産物を保護するために中国からの農産物に暫定輸入制限(セーフガード)のかけるほどである。中国がWTO(世界貿易機関)に加盟して、さらに輸入が高まる可能性がある。そんな状況で中国が水不足となれば、日本が受ける影響も大きくなろう。温暖で降雨に恵まれた日本は、水不足への関心は薄い。しかし水不足は決して他所の国のことではないのである。

 

<水はどこに>

 「水の惑星」といわれるこの地球上に、水はおよそ14億立方km存在するといわれている。そのうちほぼ97%が海水で、残りの淡水のうち大部分は極地の氷として存在している。そのまた残りのうち大部分は地下数百mの地下水である。私たちが利用できる河川、湖沼の水や地下水は、地球上の水の0.01%程度に過ぎないのである。そのわずかの水が降雨、蒸発を繰り返し、地球上を循環して、あらゆる生命の源となる。

 その源が世界から奪われようとしている。中国の黄河では断流現象が見られるようになった。国境をまたいで流れる川では上流の国と下流の国とで水の争奪戦が始まった。その原因は経済発展に伴う水需要の増加である。今世紀このような現象は世界中いたるところで起こり、水問題による難民は1998年に約2500万人に達したのが、2025年には1億人になるだろうと予測されている。

 「今から10億年後には海が消える」という予測が報道された(朝日新聞 1999.9.27)。海底にあるプレートからマントルに流れ込む水よりも火山や海嶺から地球表面上に表出される水が少ないというのだ。その結果「10億年後には海が消える」という。その現象はすでに7.5億年前から始まっているのだそうだ。

 数億年先のことに気を煩わすことは必要ないであろうが、孫やひ孫が生きる100年先の地球には気を払いたいものだ。

 

<人体と水>

 連日の猛暑で熱中症のため倒れる人が続出している。汗を出すことで、体表面から蒸発するときに体から奪う熱(気化熱)で体温を下げている。ところが水分を補給しないで、脱水症状で体内に熱が溜まることで起こるのが熱中症だ。

 成人の50〜60%は水分だ。ぽちゃぽちゃした赤ちゃんで80%である。その3分の2は細胞内にあり、残りは細胞外にある。細胞外の血液の83%は水分で、汗を出すことは血しょうの成分をろ過することで、必要なものは血しょうに再吸収される。しかし大量に汗が出ると、再吸収が追いつかず、塩分(NaCl)が減少する。大量の汗が出るほど塩っぽくなるのはそのためだ。塩分の減少は熱痙攣の原因になる。

 人体から一日におよそ2.5リットルの水が出ている。尿から1.5リットル、息・皮膚などから気づかずに出る不感蒸泄で1.0リットル、便から0.1リットルだ。失った水を補給するために、食物で1.2リットル、飲み水で1.1リットル、体内で物質が合成される際にできる代射水で0.3リットル必要だ。

 水分が出たり入ったりしながら、体内の水分量はほぼ一定で、0.22%の範囲で増減している。体重60kgでおよそ92ccの水分が増減しているに過ぎない計算だ。体重の0.5%の水分が失われると、渇きの感覚を覚えるようになり、20%の水分が失われると死亡する。その間が危険ゾーンと言えるだろう。熱中症を防ぐには渇きを覚える前に塩分を含んだ水分を補給することだ。

都会はコンクリートとアスファルトに覆われ、地面からの水分の蒸発や樹木の蒸散が減少している。そのために熱が奪われにくくなり、太陽エネルギーが大気を加熱する。しかも、冷房、自動車、工場からの「人工廃熱」が溜まっていく。都会は「熱中症」にかかっているようなものなのだ。

熱中症が都会で多いのはその辺りに原因があると考えられている。冷房のある環境から外気へ体が慣れるまでに強烈な暑さで体温が急激に上がってしまうのだ。その意味では熱中症は「公害」といえるかもしれない。

くれぐれもご用心を。

 

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